いつもにこにこされている徹さんに出会ったのは6年前。
手すりのたちあっぷをレンタルしていただいたのがきっかけでした。
「便利なもんがあるんやなー。ありがとう。」
とにっこりされる徹さんの額には痛々しいアザ。
数年前からパーキンソン病を患い、ご家族が一緒でないと外出は難しい状況だそうで
家の中ではそこかしこで転倒されているのだとか。
「お父ちゃん、よぉ~こけるもんな~。 あみちゃん(お孫さん)の方が上手に歩けとるもんな~。」
と笑いながら話す娘さん。
「はっはっはっは。 そぉ~やなぁ~。あみちゃん上手に歩きかけたな~。
今度はいつ来るゆーてた?」と笑顔でお孫さんに会えるのを楽しみにする徹さん。
いつ伺っても笑顔と笑い声に包まれたとてもステキなご家庭でした。
春はお花見に。
夏は植物園に。
秋はお祭りに。
冬はカニを食べに。
一年を通して家族でよくお出かけされていました。
しかしここ数ヶ月体調を崩されてからは家で静かに過ごされていて、モニタリングで伺っても
「肺の具合がよくないってお医者はんがゆーてんやわ。外へもなかなか出られんで、退屈やわ。」
と元気のない様子。
自室の窓から見える青々とした空と緑の下に、外を歩く自分を想い描いているのだとか。
「最近ちっとも歩かへんで、脚の筋力が落ちとんやな。もう杖ついても歩かれへんでな~。
困ったもんやわ。家族にも迷惑かけてな。こないなったらアカンなぁ~。」
と無理やりに作った笑顔にはうっすら涙がにじんでいました。
それから数日後です。
車いすをレンタルしたいというお電話が娘さんからあったのは。
「来週夏祭りやろ? 久々に花火見に行こうと思って!
知っとぉやろ?お父ちゃん最近元気ないやん。気分転換に花火!ええやろ~♪」
いつも通り明るくノリがいい。
すぐにケアマネさんに連絡し、介助用のウェイビットを納品させていただきました。
「とうとう車いす乗るようになってしもたか~。あきせんわ~。
しかし、えぇ車いすやな~。上等上等や!」
転倒が絶えない生活でも、頑なに自分の脚で歩くことを希望された徹さんでしたので、
車いすの受け入れをしていただけるか正直不安でした。
しかし、早速乗って肘掛やフレーム、シートを「上等上等!」といいながら触る徹さんに
いつもの笑顔が戻っているのを見て一安心。
ご家族さんとケアマネさんと目を合わせ、ほっと胸をなでおろしました。
夏祭りの日は晴天で、花火がきれいに見えました。
昔よりは少なくなりましたが、賑わう屋台通りを歩きながら、徹さんも楽しんでおられるかな?と
すれ違う人の笑顔に徹さんの笑顔を重ね合わせました。
それから1週間後、突然の悲報が。
「最後、車いす借りれてほんまによかった。
あれがあったから、夏祭り行けたしな。 お父ちゃん、ほんまに喜んどったで。
花火見て、屋台でたこ焼き食べてな。
あみちゃんひざの上に乗せて、いっつも通りにこにこしとったわ。
ほんまにありがとうな。お世話になりました。
最後にいい想い出作れた。
ありがとう、ありがとう。」
きっと涙が枯れるほど泣いたのでしょう。
目を赤く腫らした娘さんは、何度も何度も頭を下げられました。
ずっと手を振って見送ってくださる娘さんがサイドミラーから消えると、
我慢していた涙がどっと溢れてきました。
徹さんの笑顔が見れなくなった悲しさと、最後の想い出作りのお手伝いができたという喜びとが
入り混じる、なんとも言えない胸中でした。